英語の音がつながって聞こえる理由と対策

はじめに

英語を聞いていて、「単語は知っているのに何を言っているのかさっぱり分からない」という経験はありませんか?その多くの原因は、英語の「音がつながる現象」にあります。ネイティブスピーカーは、単語を一語一語はっきり発音するのではなく、自然なスピードで話す中で音を省略したり連結させたりします。これを理解せずに英語を聞き続けても、なかなかリスニング力は上がりません。本記事では、英語の音がつながって聞こえる理由と、その現象に対処するための実践的なリスニングトレーニング方法を、初心者にも分かりやすく解説します。

    1. はじめに
  1. 英語がつながって聞こえる最大の理由とは?
    1. 音声変化(Connected Speech)とは?
    2. 主な音声変化の種類
  2. Linking(リンキング)の正体を見抜く
    1. 子音と母音がつながる仕組み
    2. 単語ごとに切らない習慣を
  3. Elision(音の脱落)で何が消えるのか?
    1. 子音の重なりで音が消える
    2. なぜネイティブは音を省略するのか?
  4. Assimilation(音の同化)を聞き分ける
    1. 音が影響を受けて変化する仕組み
    2. 同化の種類
  5. Intrusion(挿入される音)で増える音
    1. 母音同士の間に入る音
    2. なぜ知らない音が聞こえるのか?
  6. これらの音声変化がもたらす混乱
    1. 単語は知っているのに聞こえない現象
    2. 文全体が「一つの音のかたまり」に聞こえる
  7. 聞き取り力を上げるための具体的トレーニング
    1. シャドーイング:音声変化に慣れる最高の方法
    2. ディクテーション:実際の聞き取り能力を可視化
    3. リプロダクション:聞いた内容を再構築する訓練
  8. リズムとイントネーションを意識しよう
    1. 英語のリズムは「強弱」中心
    2. 日本語のリズムとの違いを体感する
  9. 会話スピードへの耐性をつける練習法
    1. ネイティブ速度に慣れる方法
    2. 「音を聞く」から「意味をとる」へ
  10. 文法と語彙だけでは不十分な理由
    1. リスニングは音の認識が重要
    2. 知っている=聞こえるではない
  11. 実践!聞き取れる耳を作る一週間プラン
    1. Day 1–2:音声変化に意識を向ける
    2. Day 3–4:ディクテーションで確認
    3. Day 5–6:再シャドーイングとリプロダクション
    4. Day 7:ネイティブ会話を聞き流す
    5. 学習で意識すべき英語表現
    6. 完璧主義をやめよう
    7. まとめ

英語がつながって聞こえる最大の理由とは?

音声変化(Connected Speech)とは?

英語が速く聞こえたり、単語が連続して聞こえるのは「音声変化」があるからです。Connected Speechとは、単語と単語がつながることで音が変化する現象です。日本語にはほとんど見られないため、慣れていないと非常に聞き取りづらくなります。

主な音声変化の種類

  • Linking(リンキング): 単語と単語の間がつながる現象
    例:go on → goon, come in → cumin
  • Elision(エリジョン): 音が脱落する現象
    例:friendship → frenship, next day → nex day
  • Assimilation(アシミレーション): 隣り合う音が影響を与えて変化する現象
    例:good boy → goob boy, that girl → thag girl
  • Intrusion(イントルージョン): 存在しない音が挿入される現象
    例:go out → gowout, see it → seeyit

Linking(リンキング)の正体を見抜く

子音と母音がつながる仕組み

英語では子音+母音の組み合わせになると音がスムーズにつながります。たとえば:

  • “take it” → /teɪ.kɪt/ → [teɪ.kɪt] ではなく [teɪ.kɪt](軽くつながる)
  • “turn off” → /tɜːrn ɒf/ → [tɜːr.nɒf](”n”と”o”がスムーズに連結)

単語ごとに切らない習慣を

日本人英語学習者は「単語ごとに区切って聞こうとする」傾向がありますが、英語はフレーズ単位で音が流れていきます。たとえば:

  • “I want it.” → /aɪ ˈwɒnt ɪt/ → [aɪ ˈwɒnɪt]
  • “You have it.” → /juː hæv ɪt/ → [juː hævɪt]

このように、単語同士が連結してひとつの音に聞こえることが多いのです。

Elision(音の脱落)で何が消えるのか?

子音の重なりで音が消える

音の脱落(エリジョン)は、話し言葉でスムーズな発音をするために「言いにくい音」が省略される現象です。例えば:

  • “friendship” → [frɛn(d)ʃɪp]
  • “next day” → [nekst deɪ] → [neks deɪ]

なぜネイティブは音を省略するのか?

英語圏のネイティブスピーカーは、会話において「話しやすさ」を優先するため、意味が通じる範囲で音を削ります。これは「話す側の省エネ」とも言える現象で、リスニング学習者にとっては大きな壁となります。

Assimilation(音の同化)を聞き分ける

音が影響を受けて変化する仕組み

Assimilationでは、隣接する音に引っ張られて本来の音が変化します。たとえば:

  • “good boy” → [ɡʊd bɔɪ] → [ɡʊb bɔɪ]
  • “that girl” → [ðæt ɡɜːl] → [ðæɡ ɡɜːl]

このように、無意識に発音しやすいよう変化しているのです。

同化の種類

  • Progressive assimilation: 前の音が後ろの音に影響
    例: “dogs” → /dɒɡz/ → [dɒgz]
  • Regressive assimilation: 後の音が前の音に影響
    例: “that person” → [thap person]
  • Reciprocal assimilation: 双方向に影響
    例: “don’t you” → [doncha]

Intrusion(挿入される音)で増える音

母音同士の間に入る音

ネイティブは発音をスムーズにするために、母音同士が連続すると「y」「w」「r」などの音を挿入することがあります。これがintrusionです。

  • “I agree” → [aɪ jəɡriː]
  • “go out” → [ɡoʊ waʊt]

なぜ知らない音が聞こえるのか?

リスニング初心者が「そんな単語あった?」と感じる理由のひとつが、intrusionによる音の追加です。これは「正しい発音」ではなく「自然な発音」であることを理解しておきましょう。

これらの音声変化がもたらす混乱

単語は知っているのに聞こえない現象

単語帳で暗記した語彙が、会話になるとまったく聞こえない。これは「発音通りに覚えていない」「音声変化に慣れていない」ことが原因です。

  • “Did you eat it?” → [dɪdʒə iːt ɪt] → [dɪdʒiːdɪt]
  • “What do you think?” → [wɒdəjə θɪŋk]

このような短縮・連結を知らずに学習していると、英語がすべて「謎の音」に聞こえてしまうのです。

文全体が「一つの音のかたまり」に聞こえる

ネイティブの英語が「音楽のように」聞こえるのは、音と音の切れ目が曖昧になっているからです。その結果、「どこからどこまでが一つの単語なのか」がわからず混乱してしまいます。

聞き取り力を上げるための具体的トレーニング

シャドーイング:音声変化に慣れる最高の方法

シャドーイング(Shadowing)とは、英語の音声を聞いた直後に、まるで「影」のように真似して発音するトレーニングです。特に、音声変化の実感を伴って学ぶことができ、脳と口を英語のリズムに慣らすのに非常に効果的です。例えば:

  • “What are you doing?” → [whatcha doing?]
  • “I don’t know.” → [I dunno]

これらを正しいイントネーションで模倣することで、実際の英会話でも即応できる力がつきます。

ディクテーション:実際の聞き取り能力を可視化

ディクテーション(Dictation)は、聞いた英語をそのまま書き取る訓練法です。特に「音が消える」「つながる」といった現象がある部分では何度も聞き直す必要があり、集中力とリスニング力が養われます。

リプロダクション:聞いた内容を再構築する訓練

リプロダクション(Reproduction)とは、一度聞いた英語を記憶して、自分の言葉で言い直すトレーニングです。音声変化を把握し、理解した上で使える状態にするには最適な方法です。

リズムとイントネーションを意識しよう

英語のリズムは「強弱」中心

英語は「ストレスタイミング言語」と呼ばれ、一定間隔で強く読む単語(content words)を軸にリズムが作られます。そのため、弱くなる語(function words)は発音が曖昧になったり省略されがちです。例:

  • “I want to go.” → [I wanna go]
  • “He is going to do it.” → [He’s gonna do it]

日本語のリズムとの違いを体感する

日本語は「モーラタイミング言語」で、すべての音節がほぼ同じ長さで発音されます。そのため、英語特有の強弱リズムを無視してしまい、発音もリスニングも不自然になります。

会話スピードへの耐性をつける練習法

ネイティブ速度に慣れる方法

最初からネイティブのスピードで聞くのは難しく感じるかもしれません。しかし、聞き取れないからといって遅い英語ばかり聞いていては、いつまで経っても耳が慣れません。

  • 最初はスクリプト付きでネイティブ音声を聞く
  • 1.0倍速 → 1.2倍速 → 1.5倍速と段階的に慣れる
  • YouTubeやPodcastの再生速度を活用する

「音を聞く」から「意味をとる」へ

リスニングで大事なのは、「全部聞き取ること」ではなく「要点をつかむこと」です。意味を推測しながら聞く訓練を積むことで、多少音が抜けても内容理解ができるようになります。

文法と語彙だけでは不十分な理由

リスニングは音の認識が重要

英語学習でよくある誤解の一つが、「単語と文法さえ覚えれば聞けるようになる」というものです。しかし、リスニングには「音の認識」能力が不可欠です。例:

  • “I’d have gone if I could.” → [aɪdəv ɡɒn ɪfaɪ kʊd]
  • “Could you help me?” → [kəʤu help mi]

これらを「音」として聞いて理解できなければ、意味の理解にはつながりません。

知っている=聞こえるではない

知識として英単語を覚えていても、実際の会話では「聞き取れる状態」にまで昇華していなければ意味がありません。リスニングは、「視覚記憶」ではなく「聴覚記憶」に刻む必要があります。

実践!聞き取れる耳を作る一週間プラン

Day 1–2:音声変化に意識を向ける

シャドーイング素材や、ネイティブ会話をスクリプトと共に聞きながら、「音がどこで変化しているか」「何が聞き取れなかったか」を確認します。

Day 3–4:ディクテーションで確認

1文ずつ音声を止めて聞き取り、書き起こしてみましょう。スクリプトと照らし合わせて、どの音が聞こえていなかったのかを明確にすることができます。

Day 5–6:再シャドーイングとリプロダクション

聞き慣れた素材で再度シャドーイングを行い、流れに乗って発音できるようにします。その後、リプロダクションで意味ごとに再構成してみましょう。

Day 7:ネイティブ会話を聞き流す

最終日は、実際の英語会話(映画・ドラマ・YouTubeなど)を字幕なしで視聴し、どこまで聞き取れるかを確認します。すべて分からなくても問題ありません。聞き取れた量と比べて、成長を感じられるはずです。

学習で意識すべき英語表現

  • “Can you say that again?”(もう一度言ってくれますか?)
  • “I’m not sure I understood.”(理解できたか分かりません)
  • “Could you slow down a bit?”(少しゆっくり話してもらえますか?)

完璧主義をやめよう

リスニング学習で最も大切なのは「理解しようとする姿勢」です。すべての音を聞き取る必要はありません。全体の意味を把握する力こそが「英語を使える力」につながるのです。

まとめ

英語の音がつながって聞こえるのは、Connected Speechによるものです。Linking、Elision、Assimilation、Intrusionといった音声変化がリスニングを難しくしている原因です。しかし、それらの法則を知り、シャドーイングやディクテーションを通して「音の変化に慣れる」ことで、誰でも着実に聞き取れる耳を作ることができます。単語帳や文法書だけでは補えない「耳の訓練」を習慣化すれば、英語リスニングは確実に上達します。