はじめに
英語を聞いていて、「単語は知っているのに何を言っているのかさっぱり分からない」という経験はありませんか?その多くの原因は、英語の「音がつながる現象」にあります。ネイティブスピーカーは、単語を一語一語はっきり発音するのではなく、自然なスピードで話す中で音を省略したり連結させたりします。これを理解せずに英語を聞き続けても、なかなかリスニング力は上がりません。本記事では、英語の音がつながって聞こえる理由と、その現象に対処するための実践的なリスニングトレーニング方法を、初心者にも分かりやすく解説します。
英語がつながって聞こえる最大の理由とは?
音声変化(Connected Speech)とは?
英語が速く聞こえたり、単語が連続して聞こえるのは「音声変化」があるからです。Connected Speechとは、単語と単語がつながることで音が変化する現象です。日本語にはほとんど見られないため、慣れていないと非常に聞き取りづらくなります。
主な音声変化の種類
- Linking(リンキング): 単語と単語の間がつながる現象
例:go on → goon, come in → cumin - Elision(エリジョン): 音が脱落する現象
例:friendship → frenship, next day → nex day - Assimilation(アシミレーション): 隣り合う音が影響を与えて変化する現象
例:good boy → goob boy, that girl → thag girl - Intrusion(イントルージョン): 存在しない音が挿入される現象
例:go out → gowout, see it → seeyit
Linking(リンキング)の正体を見抜く
子音と母音がつながる仕組み
英語では子音+母音の組み合わせになると音がスムーズにつながります。たとえば:
- “take it” → /teɪ.kɪt/ → [teɪ.kɪt] ではなく [teɪ.kɪt](軽くつながる)
- “turn off” → /tɜːrn ɒf/ → [tɜːr.nɒf](”n”と”o”がスムーズに連結)
単語ごとに切らない習慣を
日本人英語学習者は「単語ごとに区切って聞こうとする」傾向がありますが、英語はフレーズ単位で音が流れていきます。たとえば:
- “I want it.” → /aɪ ˈwɒnt ɪt/ → [aɪ ˈwɒnɪt]
- “You have it.” → /juː hæv ɪt/ → [juː hævɪt]
このように、単語同士が連結してひとつの音に聞こえることが多いのです。
Elision(音の脱落)で何が消えるのか?
子音の重なりで音が消える
音の脱落(エリジョン)は、話し言葉でスムーズな発音をするために「言いにくい音」が省略される現象です。例えば:
- “friendship” → [frɛn(d)ʃɪp]
- “next day” → [nekst deɪ] → [neks deɪ]
なぜネイティブは音を省略するのか?
英語圏のネイティブスピーカーは、会話において「話しやすさ」を優先するため、意味が通じる範囲で音を削ります。これは「話す側の省エネ」とも言える現象で、リスニング学習者にとっては大きな壁となります。
Assimilation(音の同化)を聞き分ける
音が影響を受けて変化する仕組み
Assimilationでは、隣接する音に引っ張られて本来の音が変化します。たとえば:
- “good boy” → [ɡʊd bɔɪ] → [ɡʊb bɔɪ]
- “that girl” → [ðæt ɡɜːl] → [ðæɡ ɡɜːl]
このように、無意識に発音しやすいよう変化しているのです。
同化の種類
- Progressive assimilation: 前の音が後ろの音に影響
例: “dogs” → /dɒɡz/ → [dɒgz] - Regressive assimilation: 後の音が前の音に影響
例: “that person” → [thap person] - Reciprocal assimilation: 双方向に影響
例: “don’t you” → [doncha]
Intrusion(挿入される音)で増える音
母音同士の間に入る音
ネイティブは発音をスムーズにするために、母音同士が連続すると「y」「w」「r」などの音を挿入することがあります。これがintrusionです。
- “I agree” → [aɪ jəɡriː]
- “go out” → [ɡoʊ waʊt]
なぜ知らない音が聞こえるのか?
リスニング初心者が「そんな単語あった?」と感じる理由のひとつが、intrusionによる音の追加です。これは「正しい発音」ではなく「自然な発音」であることを理解しておきましょう。
これらの音声変化がもたらす混乱
単語は知っているのに聞こえない現象
単語帳で暗記した語彙が、会話になるとまったく聞こえない。これは「発音通りに覚えていない」「音声変化に慣れていない」ことが原因です。
- “Did you eat it?” → [dɪdʒə iːt ɪt] → [dɪdʒiːdɪt]
- “What do you think?” → [wɒdəjə θɪŋk]
このような短縮・連結を知らずに学習していると、英語がすべて「謎の音」に聞こえてしまうのです。
文全体が「一つの音のかたまり」に聞こえる
ネイティブの英語が「音楽のように」聞こえるのは、音と音の切れ目が曖昧になっているからです。その結果、「どこからどこまでが一つの単語なのか」がわからず混乱してしまいます。
聞き取り力を上げるための具体的トレーニング
シャドーイング:音声変化に慣れる最高の方法
シャドーイング(Shadowing)とは、英語の音声を聞いた直後に、まるで「影」のように真似して発音するトレーニングです。特に、音声変化の実感を伴って学ぶことができ、脳と口を英語のリズムに慣らすのに非常に効果的です。例えば:
- “What are you doing?” → [whatcha doing?]
- “I don’t know.” → [I dunno]
これらを正しいイントネーションで模倣することで、実際の英会話でも即応できる力がつきます。
ディクテーション:実際の聞き取り能力を可視化
ディクテーション(Dictation)は、聞いた英語をそのまま書き取る訓練法です。特に「音が消える」「つながる」といった現象がある部分では何度も聞き直す必要があり、集中力とリスニング力が養われます。
リプロダクション:聞いた内容を再構築する訓練
リプロダクション(Reproduction)とは、一度聞いた英語を記憶して、自分の言葉で言い直すトレーニングです。音声変化を把握し、理解した上で使える状態にするには最適な方法です。
リズムとイントネーションを意識しよう
英語のリズムは「強弱」中心
英語は「ストレスタイミング言語」と呼ばれ、一定間隔で強く読む単語(content words)を軸にリズムが作られます。そのため、弱くなる語(function words)は発音が曖昧になったり省略されがちです。例:
- “I want to go.” → [I wanna go]
- “He is going to do it.” → [He’s gonna do it]
日本語のリズムとの違いを体感する
日本語は「モーラタイミング言語」で、すべての音節がほぼ同じ長さで発音されます。そのため、英語特有の強弱リズムを無視してしまい、発音もリスニングも不自然になります。
会話スピードへの耐性をつける練習法
ネイティブ速度に慣れる方法
最初からネイティブのスピードで聞くのは難しく感じるかもしれません。しかし、聞き取れないからといって遅い英語ばかり聞いていては、いつまで経っても耳が慣れません。
- 最初はスクリプト付きでネイティブ音声を聞く
- 1.0倍速 → 1.2倍速 → 1.5倍速と段階的に慣れる
- YouTubeやPodcastの再生速度を活用する
「音を聞く」から「意味をとる」へ
リスニングで大事なのは、「全部聞き取ること」ではなく「要点をつかむこと」です。意味を推測しながら聞く訓練を積むことで、多少音が抜けても内容理解ができるようになります。
文法と語彙だけでは不十分な理由
リスニングは音の認識が重要
英語学習でよくある誤解の一つが、「単語と文法さえ覚えれば聞けるようになる」というものです。しかし、リスニングには「音の認識」能力が不可欠です。例:
- “I’d have gone if I could.” → [aɪdəv ɡɒn ɪfaɪ kʊd]
- “Could you help me?” → [kəʤu help mi]
これらを「音」として聞いて理解できなければ、意味の理解にはつながりません。
知っている=聞こえるではない
知識として英単語を覚えていても、実際の会話では「聞き取れる状態」にまで昇華していなければ意味がありません。リスニングは、「視覚記憶」ではなく「聴覚記憶」に刻む必要があります。
実践!聞き取れる耳を作る一週間プラン
Day 1–2:音声変化に意識を向ける
シャドーイング素材や、ネイティブ会話をスクリプトと共に聞きながら、「音がどこで変化しているか」「何が聞き取れなかったか」を確認します。
Day 3–4:ディクテーションで確認
1文ずつ音声を止めて聞き取り、書き起こしてみましょう。スクリプトと照らし合わせて、どの音が聞こえていなかったのかを明確にすることができます。
Day 5–6:再シャドーイングとリプロダクション
聞き慣れた素材で再度シャドーイングを行い、流れに乗って発音できるようにします。その後、リプロダクションで意味ごとに再構成してみましょう。
Day 7:ネイティブ会話を聞き流す
最終日は、実際の英語会話(映画・ドラマ・YouTubeなど)を字幕なしで視聴し、どこまで聞き取れるかを確認します。すべて分からなくても問題ありません。聞き取れた量と比べて、成長を感じられるはずです。
学習で意識すべき英語表現
- “Can you say that again?”(もう一度言ってくれますか?)
- “I’m not sure I understood.”(理解できたか分かりません)
- “Could you slow down a bit?”(少しゆっくり話してもらえますか?)
完璧主義をやめよう
リスニング学習で最も大切なのは「理解しようとする姿勢」です。すべての音を聞き取る必要はありません。全体の意味を把握する力こそが「英語を使える力」につながるのです。
まとめ
英語の音がつながって聞こえるのは、Connected Speechによるものです。Linking、Elision、Assimilation、Intrusionといった音声変化がリスニングを難しくしている原因です。しかし、それらの法則を知り、シャドーイングやディクテーションを通して「音の変化に慣れる」ことで、誰でも着実に聞き取れる耳を作ることができます。単語帳や文法書だけでは補えない「耳の訓練」を習慣化すれば、英語リスニングは確実に上達します。